皆さま、こんにちは♡
サービス業に携わる方や経営者の方に、サービスやおもてなしのポリシーを伺う、「おもてなしの哲学」インタビューシリーズ、第15弾。
今回は、なんと桃山時代から400年続く京都・宇治の「朝日焼」の16世、松林豊斎(ほうさい)様にお話を伺いました。
早速ご紹介してまいります♡
お茶の文化のアップデートを!
-早速ですが、こちらのギャラリー、大変素敵ですね!川の流れが見える室内から、穏やかな空気を感じます。
松林様:ありがとうございます。朝日焼Gallayは、僕の代で作りました。
–松林様の代で新しく始められたことが、とても多そうですよね!
はい、父の代までは、こちらのカラフルな煎茶器を作っていました。
元々は、青磁ではないものがメインだったのですが、私の代からはこちらの「河賓清器」というシリーズを作りました。
「自分の世代の感覚を持ちながらお店を作りたい」と考えていて…宇治にいると、(お茶の)生産者の方と交わる機会が多いのですが、もっとお茶を文化として広めたいなと思うようになりました。
このギャラリーは、海外からのお客様も多いのですが、ヨーロッパからだけではなくアジアの方も訪れてくださいます。元々お茶の文化のある中国・台湾・香港などの方も、自国の文化の経済の発展と共に自国のお茶を楽しまれるようになりました。自分の国でのお茶の文化はこうだけど、日本ではどうなんだろう?と見に来てくれる方が増えました。
-どれも素敵ですが、私はこのピンク色のしぼり出し(急須のような茶器)がすごく素敵だなと思いました✨
この色ですよね。これは、桜の色をイメージしています。
桜の花びらって、実は白にとても近いピンク色なんですよね。その色よりは少し濃くしているのですが、人は不安定で一様でない色ほど美しさを感じやすいと言われているんです。
ここに微妙なグラデーションがあるでしょう。微妙な色の変化が、安心感につながるんですよね。
-初めて知りました。見れば見るほど、本当に洗練されていて、素敵です!
ありがとうございます。僕は「使えば使うほど飽きない器が作りたい」と考えています。
-前回、開化堂カフェで朝日焼さまのカップでコーヒーをいただいたのですが、本当にいただきやすかったです。1年後に、思い出して、わざわざ京都まで足を運んで買いに来てくださった方がいた、と伺いました。
はい、それはとてもありがたいことで…器のことを、まず歴史の説明からしてしまうと(歴史の重みで)引かれてしまうこともあるんです。ですが、手に取ってみて使いやすいな、とか、確かに良さがあるものが作りたいと思っていて、そのように後から思い起こしてもらえるってとても素敵なことですよね。
-コーヒー用のカップは、自然と飲みやすい楕円形になっていましたよね。ろくろでその形を作るのは、とても大変なことだとお伺いしました。こんな風にいうのはおこがましいのですが、本当に流石の技術力です!
一回だけろくろを回したことがあるのですが、全くうまくできなかったので…
ろくろって難しいんですよ。思い通りにならないことがスタンダードで。ろくろを回していると、ストレス耐性が高くなると言いますか。感情の起伏が穏やかになりますね。将来的にマインドフルネスのようにロクロで心を整えるのが一般的になるのでは?なんて、思ったりもします(笑)
常に、できる自分とできない自分が繰り返していくので、できるようになったら、あれもやりたい、これもやりたいと理想が高くなってきますよ。
-一朝一夕では培えない技術力もさすがですが…400年の歴史を持つ朝日焼、その当主として、松林様が大切にされていることは何でしょう?
他の人の視点を借りたからこそ、見えたもの
松林様:朝日焼16世としてどうしていくのかを考えた時に、「宇治で作っている」この環境の中で培ったものがある!というのは、まず見えたことでした。開化堂の八木隆裕さんと中川木工芸の中川周士さんと共に、昨年SHOKUNIN展という展覧会をしたのですが、その際、急須と茶碗を180年分並べたんです。
朝日焼では、掘った土を50年〜100年寝かせてから使っているのですが、宇治に育まれた土を使っているのは、変えてはいけない部分だなと思いましたね。
また、朝日焼では登り窯に火を入れるときに、釜の神様にお祈りしてから釜の中に火を入れています。年間3回ほど、3日間かけてするんですが、その写真を見たGO ONのメンバーから、「ここが大事にしているものなんだろうな」とポツンと言われて。自分で、その時「ハッ」としました。
-なるほど。他の方の目を借りたからこそ、見えてくることってありますよね。実際、GO ONのメンバーはエッジが効いた方が多いと聞いたのですが、一緒にいて、いかがですか?
個性が強いからこそ強い力となる
松林様:GO ONメンバーは、それぞれ本当に個性が違っていて、僕は調整役になっています。
八木くんがキャプテンで、西陣織の細尾さんには突破力があったり、それぞれの持ち味が強いですね。
最初は、「自分たちの会社の利益をあげなきゃ」ということで始まった活動ですが、6人集まると、日々の利益のことなどではなく大きな目標ができて…。「工芸で世界を変えたい」だとか、「自分が社会を変えたい」と思うようになったんです。青臭いことを真剣に考えて動いてる。会うとメンバー一人一人が新しい活動をしていて、それに刺激され、この7〜8年で想像もつかないことができました。
-それぞれが別の個性を持っているから、強いのかもしれませんね。私たちでも、SWOT分析というのをするのですが、「強みが重ならないチームの方が強い」そうです。
職人さんとコミュニケーションを取る上で大切にしていることは「相手に対するリスペクト」
-松林様は若くして16代目になられたと思うのですが、職人の皆様と話す上で気をつけられていることはございますか?
松林様:「相手に対するリスペクト」だと思います。自分の親の代からの職人さんなので難しいのですが、16代目として「こうしたい」ということは伝えないといけない。自分が「こう思っている」ということを共有して考えてもらうようにしています。やはり、自分とは見ているものや経験していることも違うので、自分が作ったものと職人さんが一緒にならないこともあります。
どうありたいかは常に話して置かないといけないと思うのと同時に、自分が作ったものと一緒にならない時には、その場でタイミングを図りながら正直に伝えるしかない。
そういった面では、ろくろの土を扱う時と、人間関係は同じだなと思っていて、「タイミングと方向性。」これが重要ですね。力が強ければいいというものではない。
-なるほど。タイミングも重要ですし、「自分の本心を開示する」というのも大切だな、と思いました。最後に、松林様の今までの中で、心に残る「おもてなし」がございましたらお教えください。
「ファミリーの中に迎えてくれる感じ」が最高のおもてなし
松林様:そうですね…僕は祖父の縁があり、イギリスのリーチポッタリーという陶芸家のもとで1ヶ月間過ごしたことがあります。今までは自分のホームである宇治で作陶していたのですが、イギリスに行って、作陶している間は集中しているのでよかったものの、気がつかなかったですが気を張っていたのでしょうね。
帰りにロンドンに寄った時、作家の入江敦彦さんがバーナードリーチのお茶器でお茶を出してくれたんです。その時に、ここは「ホームなんだ」と思えたんです。
いいレストランでご飯を食べたとかそういうことではなく、「ファミリーの中に迎えてくれる感じ」というか…最高の「おもてなし」を思い起こすと、そういう些細なことが思い浮かびますね。
-なるほど。私たちも、そのような素敵な「おもてなし」が実践できるように、アンテナを貼って行きたいです。
最後に、これから狙っていらっしゃることは何でしょう?
今後狙っているのは、「工芸の思想・哲学を社会に実装する」こと
松林様:すでに、GO ONとして意識がアップデートされているとは思うのですが、今後は自分たちで「工芸の世界を変えたい」から、「工芸で世界を変えたい」に変わってきました。
工芸の思想・哲学を社会に実装することができたら、その思考を世界の人が持ってくれたらとても嬉しいです。サービスに関しても、マスプロダクト的なサービスではなく、「ひとつひとつを大切にする」という面で、工芸的なサービスですとか、工芸性のある工業製品というのも出てくるかもしれない。
工芸の「一つ一つに向き合うような感覚」を社会に実装できたら、と思っています。
-一度に大量にできることではなく、個に寄り添う…それが、工芸と結びつくなんて、思ってもいませんでした!新たな視点が開けた気がします!
桃山時代から400年の歴史を持つ朝日焼16世松林豊斎さま。
その長い歴史を持った視点から、おもてなしについて、新たな目線や発見がありました。
朝日焼さまのギャラリーはこちら。
次回はXXXXをお届けします!