サービス業に携わる方や経営者の方に、ポリシーや哲学などを伺う「おもてなしの哲学」インタビューシリーズ、第三弾。
今回は、かの有名な三つ星レストラン「ジョエル・ロブション」にて、ソムリエのトップであるエグゼグティブソムリエを務め、今は亡きジョエル・ロブション氏の魂を受け継ぐ、信国武洋さんにお話を伺いました。
(※インタビューは2020年12月末に行ったものです。)
現在は「Salon du vin Premier(サロン・ドゥ・ヴァン・プルミエ)」の代表を務めながら、ワインスクールでの講師の顔も持つバイタリティ溢れる信国さん、いかにしてトップソムリエとして大成していかれたのか。
おもてなしに関する沢山のこだわりや極意について、一流のサービスを目指す人達へのアドバイスも含め、熱く語って頂きました。
【ジョエル・ロブション 元エグゼグティブソムリエ 信国武洋氏が語る】サービスにマニュアルはない!野心を失くさず進化し続ける
もともとはホテル勤務だった信国武洋さん。29歳の時に単身渡仏し「Bistrot du Sommelier」「ギィ・サヴォワ」「トゥールダルジャン・パリ」などフランスで有数な星付きレストランでソムリエ修行をされました。
当時の月収はたったの1000ユーロ、日本円にすると約10万円…「それでも毎日が本当に楽しかった」と語る信国さん。
2004年に「シャトーレストラン・ジョエル・ロブション」で働き始め、2005年にはワインスクール「レコールデュヴァン」講師となります。2006年には第3回全日本最優秀ソムリエ大会にてセミファイナリストに選出。そして2018年に独立、「Salon de vin Premier(サロン・ドゥ・ヴァン・プルミエ)」をオープンさせました。
常にチャレンジしながら進化を続ける信国さん。
「一日、ひとりとして同じサービスはありません。」そして、「サービスにマニュアルはない。目の前にいるお客様をどうしたら満足させられるか、発想や創造、機転を使って日々考えなければならない。」と信国さんは語っています。
トップソムリエとして大成された信国さんのこだわりのおもてなし術について、詳しく伺っていきましょう!
お客様は1日8名まで!こだわりの詰まったワインの基地
—早速ですが、ジョエル・ロブションでソムリエとしてトップまで登り詰められた信国さんが、独立し「Salon de vin Premier(サロン・ドゥ・ヴァン・プルミエ)」をオープンされるまでの経緯をお聞かせいただけますか。
信国氏:2年前までジョエル・ロブションでエグゼグティブソムリエをしていましたが、ボスのジョエル・ロブション氏(以下、ボス)が亡くなりまして。それがきっかけで「もっと自由に幅広くワインを発信したい」、「チャレンジして進化したい」という想いから今のレストランをオープンしました。ここはワイン好きの人達が集まる、ワインがなければ存在しない場所です。セミナーを開催したり、ワインの販売、オンライン授業もしています。
—「Salon de vin Premier(サロン・ドゥ・ヴァン・プルミエ)」は、紹介制、更にお客様は1日8名まで、というレストランですが、そうされたのはなぜですか?
信国氏:お客様には常に最高のクオリティを提供しなければなりません。28席ある広いスペースなので、もっとお客様を入れることもできるのですが、フランス人のシェフと私でやっている小さいお店ですので、常に最高のサービスをする為に8名様までとしています。ボスも昔、同じスタイルをとっていたんですよ。
ボスの哲学を受け継ぐことが使命〜師匠ジョエル・ロブション氏への熱い想い〜
—なるほど!そうなんですね!亡きロブション氏への熱い想いがとても感じられます。
信国氏:フランス語が話せるというのもあって、ボスに一番怒られたのは私ですからね(笑)ですので、ボスの教えを直接受けた唯一の日本人だと思っています。フランスの三つ星レストランは息子が店を継ぐことが多いんですが、残念ながらボスはそうではなかったんです。それは彼にしか知り得ない深い悲しみだと思うので、ボスの哲学を継承することは、私たち弟子の使命だと思っています。
—お話を伺っていて、信国さんがサービスに対して深い信念やこだわりをお持ちだということや、ロブション氏への深い尊敬の念がヒシヒシと伝わってきます。
「目の前の人を幸せに」に込められた想い〜自分流を追い求めろ!〜
—では、信国さんが考える最高のサービス、おもてなしとは何でしょうか?
信国氏:一日、ひとりとして同じサービスはありません。ですから「目の前の人を幸せにしたい」と思う以外ありません。今、目の前に居る人と向き合って、その人を幸せにする、それだけです。同じお客様でも「今日は疲れているな」「元気がないな」と思えば、想像して、機転を利かせて、その人をどうしたら幸せにできるのか考えます。日々その積み重ねです。
—なるほど。ひとつとして同じサービスはない-シンプルですが、トップソムリエとしての経験を積んだ信国さんだからこそ成せるおもてなしですね。
—信国さんは今まで沢山のサービスマンを育ててきた経験もお持ちだと思うのですが、一流のサービスマンを育てる為にこだわってきた指導法、またサービスに関わる人達に伝えたい想いはありますか?
信国氏:私は、部下には非常に厳しいです。厳しい中にしか一流は生まれない、というのがロブションの教えです。「妥協はするな」「先読みをしろ」ということは特に厳しく教えてきました。また、いつも通りではなく「自分流を求めろ」ということも伝えてきましたね。様々なことにトライして、経験を積んで、自分にしか出来ないサービスを追究してもらいたいです。安定した日々より「もっと飛び出せ!」と。特にコロナ禍の今は、マニュアルを打開できるような強さが必要です。台本を持たず、経験だけ積んで、エネルギーのある言葉を伝えていって欲しいと思いますね。
—まさに、フランスでのソムリエ修行で身をもって経験された信国さんの教えですね。そして、その自分流こそがマニュアルなきサービスに繋がるのですね。
冷たいおにぎりが最高のサービス!?
—25年間ソムリエとしてサービスに携わってきた信国さんが、ご自身が受けたサービスの中で最高だと感じた、心に残るおもてなしはありますか?
信国氏:私が仕事で、フランスのワイナリーを巡るツアーを担当した時のことです。帰りの機内でサービスを担当してくれたCAが、たまたまワインスクールの生徒だったんですよ。私は疲れ切っていて、機内では食事もせずにずっと寝ていました。すると飛行機を降りる際に彼女が袋を渡してきましてね、中には冷たいおにぎりと手紙が入っていました。冷たいおにぎり、お世辞でも美味しくないですよ(笑)でも、バスの中で「やっと家に帰れる」と思った時に、手元にそのおにぎりと手紙があって…「あぁ、いいサービスだな」と。疲れ果てた僕の様子を見て、自分にできることはないか、と彼女が考えてくれた結果がそれだったんですね。
—ご自身でも様々な一流レストランでサービスを受けられてきた信国さんが選ぶ最高のサービスが、「冷たいおにぎり」とは…。とても素敵なエピソードですね。温かい気持ちになります。
信国氏:サービスには良い意味でのラフさ、フランクさも必要ですよね。海外のレストランはお客様の喜ばせ方が上手なので、一流レストランでもお客様が楽しそうにお喋りしていて、明るく賑やかで居心地が良いんです。日本のフレンチレストランは少し緊張感があるような気がするんですが、お客様にはリラックスして楽しんでもらいたい、と私は思っています。様々な三つ星レストランにも行って、どこも安定した素晴らしいサービスでしたが、それよりも「おにぎり事件」のほうがよっぽど心に残っていて、本当に良いサービスだったな、と思いますよ(一同爆笑)
—最後に、これからやっていきたいこと、展望を教えていただけますか。
信国氏:身の丈に合ったスピードで、形を変えながらお店を拡張していきたいです。そして今は、日本全国どこに居ても誰でも無料でセミナーを受けられるようYouTubeチャンネルも開設して、YouTuberに挑戦中です(笑)色々な形でワイン教育に貢献していきたいですね。「歳はとっても、決して野心は無くさないでいたい」と思います。
—沢山の興味深いお話、ありがとうございました!信国さんのお話から終始熱いエネルギーを感じました!
いかがでしたでしょうか?時代の変化に合わせて常にチャレンジし続ける信国さんのバイタリティ溢れるお姿やお話、コロナ禍の今は特に心に響き、大変勉強になりました。またお言葉ひとつひとつにエネルギーが感じられ、それは信国さんの様々な経験の賜物なのだと感じました。Omotenashiに関して沢山勉強させていただき、ありがとうございました!
信国さんのSNSはこちら: Instagram/Facebook
ご存知ですか?レストランで高いおもてなしのサービスを受ける側にもスマートなマナーがあります。特に一流レストランでは、高いマナーが求められるものです。そこで、ワインに詳しくなくても出来る、ワインを美味しく頂くためのお作法をソムリエCAがご紹介します。
次回は、【メディアで培った力を人のために!】スポーツアンカー、ジャーナリスト、講師、起業家など、様々な顔を持つ田中大貴様に、最高のおもてなしについて伺いました!乞うご期待です!