創業140年、京都が誇る老舗の茶筒屋さん「京都開化堂」6代目の八木隆裕さん。インタビュー中編です。
100年先も開化堂らしいことを続けるために【外への挑戦】
伝統工芸を受け継ぐ6名による活動「GO ON」。多分野との結節点を広げていく!
ー前回、外への挑戦は、「『工芸』の価値の底上げ」と仰っていましたよね。
八木隆裕さん(以下隆裕):はい。そのために、今は工芸の中心部の交点を探しています。工芸とは何か?その交点を言葉化できたら、そこからの距離を測ることで、自身のものづくりの価値を伝えることができるんじゃないかと。
現在、京都の伝統工芸を受け継ぐ6名で、世界の方に「工芸」の価値を知ってもらう取り組みを行なっています。
メンバーは、京金網「金網つじ」の辻 徹、西陣織「細尾」の細尾 真孝、桶指物「中川木工芸」の中川 周士、茶陶「朝日焼」の松林 豊斎、工芸「公長齋小菅」の小菅 達之です。(写真は、左から「金網つじ」の辻さん、「中川木工芸」の中川さん、「朝日焼」の松林さん、「開化堂」八木さん、西陣織「細尾」の細尾さん、「公長齋小菅」の小菅さん。)
最初は6名、それぞれが経営者として競い合っていました。ですが、活動を続けるうちに、相手の良さが見え、それが更に自分の良さの再発見にもつながった気がします。
中でも「未来の豊かな暮らし」とは何かをテーマに、Panasonicアプライアンス社デザインセンターとコラボレーションを行ったことはとても大きなプロジェクトでした。
開化堂からは、筒を開けた時だけに音が鳴る「響筒 kyo-zutsu」を出しました。
密閉された空間の中にスピーカーを閉じ込め、蓋を開けた時だけ音が鳴る仕組みです。
ーうわ!本当だ!!蓋を開けると、茶筒から振動がしますね!!!
そうなんです。びっくりでしょう?開化堂の茶筒ならではの、経年変化を楽しんでいただける、「次の代へと繋ぐことが出来る家電」なんじゃないかと思っています。
「楽しい出来事を共有」が、工芸の価値の底上げにつながる
隆裕:また、GO ONのメンバーでカナダに行って行っていたワークショップもとても人気でした。
みんなで「楽しい出来事を共有」することが、「工芸」の価値の底上げにつながっていると思っています。カナダのワークショップでは、カップピッタリの茶漉しを作り、急須を使わずともお茶を楽しめるものを提供してきました。お客様が想像して、自分のマグカップでも使えるんじゃないかな?となればいいなぁと。「相手の生活や文化との『In Between』」になるものを提供しました。
–お写真を拝見したのですが、トークショーには400人くらい集まられたのですか?
はい。ですが昨年はコロナ禍でイベントが開催できなかったので、手法を変えてみました。
お茶櫃(ちゃびつ)をカナダに送り、購入者限定のオンラインイベントにしたのです。
カナダに行かないとできないことではなく、日本からオンラインだから出来ること、を考え工夫をしました。
2時間のイベントにしたのですが、1人持ち時間15分で、間にお茶休憩の時間も入れ、朝日焼だったら登り窯の前から、窯が見える状態でオンライン中継をしたり、茶畑から中継をしたりしました。
ーそれはすごい!!!日本の現場が直接見えるって、とても盛り上がったのではないですか?
事前の準備は、カメラワークも自分たちでやったりして大変でしたけどね。
今までは、工房を現地で再現することに囚われていましたが、コロナになって、オンラインで出来ることを考えた時に、「工房をそのまま伝えればいいんじゃないか?」と思いました。
ーそれは臨場感があって本当に素敵でしょうね!最初から、こんなに海外でのヒットを続けられてきたのですか?
前職がお土産を海外の方に売る仕事でした。そこで3年働いているときに、アメリカの方がキッチンで使うといって購入してくださったんです。その経験が、開化堂に戻るきっかけにもなりました。
最初は、見て覚えろの世界です。基本的に、親父は教えてくれない。親父のやることを見て覚えました。ものづくりを覚えることに専念していた時、ちょうど開化堂に戻って5年目に、ロンドンのPostcard Teasから「売りたい」といってきてくれたんです。「ロサンゼルスで見つけた」と。Postcard Teasは、ロンドンのDering Streetにあるお店で、元々お父様ががギャラリーをされていたところを改装してお店を始められました。そこで実演をするために、道具を持って行きました。また、そのご縁でヴィクトリアアルバートミュージアムにも茶筒を置いていただけることになりました。
POSTCARD TEASで人気なのが、「メッセージカードサービス」。様々なデザインのポストカードが貼られたパックに、茶葉を入れて切手を貼り、店内にあるポストに入れて世界中に贈ることができるというサービスです!
ーPostcard Teasオーナーのティムさんは、日本に住まれていたこともあるとのことで、日本を愛して下さっているんですね!
失敗は「日本を意識しすぎた」こと
その後パリに呼ばれて、「天狗の鼻を折られた」ことがあって。「日本を意識しすぎた」んですよね。お相手の依頼で作務衣を着て実演しようとしたら、出勤する間に道を歩いていて子供に「忍者」と言われました。この経験から、相手の「生活の中にいかに溶け込むか」がポイントだと思いました。
向こうの食文化は紅茶や、コーヒーな訳ですが、日本を忘れたつもりで1・2割混ぜても、海外だったら日本っぽく見えるんです。
【内への挑戦】多様性を持つこと。「らしさ」を伝える。
工芸をこれからの未来につないでいくために、僕たち(Go onのメンバー含む)がすべきなのは、「出来る限り、遠くにジャンプする」こと。遠くにジャンプしても、僕たちは(例えば開化堂なら)140年の歴史を背負っています。その重みが、遠くまでジャンプしても、引き戻す力となるから、大丈夫だと。
隆裕:デンマークのデザイナーさんに「ウォーターピッチャーを作らないか」と勧められたのですが。ウォーターピッチャーを作ると決めた時が、一番葛藤があったかもしれません。「お茶筒」というものから全く離れてしまう。けれど、デザイナーさんから、「やらなかったら、一生『機密性のあるもの』から離れられなくなるぞ、と言われて。悩んで親父に相談してみたのですが、「やってみて、ダメだったら(茶筒に)戻ってきたらええ」ということでした。
このウォーターピッチャーはパリ装飾美術館、オランダのデザインミュージアム、コペンハーゲンのミュージアムにも永久保存されています。
ーなるほど。戻れる場所があるから、挑戦をすることが出来るのですね。
それは、何となくですが、コロナ禍で新しいことにチャレンジしようとしている全ての人にも同じことが言える気がします。
実は、このKaikado Cafeもそんな多様性とか、異文化に溶け込むことの一環なのです。
僕たちの世代にとって、20代の子達とか、若い子たちの世代は既に異文化で。そこにどれだけ溶け込めるのか。
このカップ一つをとっても、上から見ると、楕円になっているでしょう?
朝日焼さんが、考えて、コーヒーカップは飲みやすいようにカップの口を楕円にしてくれてるんですよ。
後から思い出して、1年後に買いに来てくれる人もいるほどです。最初から工芸のことを話してカフェに来てもらうのではなく、カフェを楽しんで頂いて、聞かれたらお答えしています。若い人に最初から話したら引いちゃうんですよね。
使う人のことが頭にあるから、職人は技を磨いてより良いものを生み出していける
隆裕:「工芸」というのは、「使う人」と「作る人」の間にあるもの、「In Between」だと思っています。もちろん、価格帯の問題などもあるので100%カスタマイズはできませんが、「使う人のこと」を常に意識しています。その間を繋げるかどうか。
ー「相手」ありき!これ、すごい共通点です!おもてなしは「思いやりの心」の「行動化」なので!!
隆裕:今は、コロナ禍で海外にいけないこともあり、Youtubeや座談会などで工芸のことを伝える場を作るなどの試みをしています。
そのような様々な挑戦の中で、工芸の中心点を見つけられたらいいなと。
ーでは、社員の方とはどのようにコミュニケーションを取られているのですか?八木さんの考える開化堂のために、実際手足を動かしてくださっている皆さまとの、意思疎通のポイントを教えてください!
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