みなさま、こんにちは。
サービス業に携わる方や経営者の方に、ポリシーや哲学などを伺う、「おもてなしの哲学」インタビューシリーズ、第2弾。
今回は日本のコンテンツを世界に伝える架け橋となり、ニューヨーク市(NYC)でご活躍されている「LEGIT KATANA LLC」代表社員、瀧内泉さんにzoomをでお話を伺いました。
瀧内さんはNHKアナウンサーに始まり、劇団四季ではプロデューサーとして、ディズニーミュージカル『ライオンキング』の日本公演立ち上げ、ソニー株式会社でコンテンツプロデュース、などに携わられてきた経験の持ち主です。
世界で活躍される方とはどういったことを考えているのでしょう?
これまでの瀧内さんの経験の中に、私たちがテーマとしているOmotenashi(おもてなし)が活かされてきたことはあるのでしょうか?
普段はなかなか聞くことのできないコンテンツを作り上げる裏側の貴重なお話をお伺いしました。
【有言実行!ついに日本のコンテンツがブロードウェイへ!】
今はNYCに拠点を移し日本のコンテンツを世界に届けるお仕事をされている瀧内さん。コロナ禍で世界中のエンタテインメントが停止している報道が相次ぎ、街が停滞気味に見える中、瀧内さんは着々と目標に向かって進まれております。
まずは現在のNYCの様子や活動状況を伺っていきましょう。
ーNYCもコロナの影響が大きいかと思いますが、お仕事の状況はいかがでしょうか?
瀧内泉さん(以下、瀧内):日本では、NYCはブロードウェイが閉鎖されて大変だろうな、と思われているかもしれませんが、オンブロードウェイの出演者やスタッフはセーフティーネットがしっかりしているので、公的な失業保険を得ながら経済的には問題なく生活しているようです。ただ、現状は仕事がないので、お金がかかるNYCを脱出して田舎に帰って生活をされている方が多いと聞きました。
ーやはりコロナで影響を受けている方もいらっしゃいますよね。。。瀧内さんのお仕事に影響はありませんか?
瀧内:私のプロジェクトは作品の開発段階で、私自身は契約や事業計画の更新、クリエイターの方々は作曲や脚本の政策を進めてくださっていて、ミーティングなどもzoomで行っているのであまりコロナの影響は受けていません。作曲家は「このコロナ下の環境は、作品と向き合うことに集中でき、実はとてもプラスに作用している。」と言っていますよ。(作曲家は未発表ですが、グラミー賞・トニー賞を受賞された巨匠です!)コロナの状況が悪いことばかりではないのです。嘆いてばかりでは仕方がないと思い、前進しています。
ー素晴らしい考え方ですね。やはり気の持ちようで行動や考え方は変わってきますね。暗いニュースが続く世の中ですが、そんな中嬉しいニュースがありましたね!瀧内さんが総合プロデューサーを務められる、日本の漫画『鼻下長紳士回顧録』(安野モヨコ作)のブロードウェイ演出家によるミュージカル化を発表されました!おめでとうございます。
瀧内:ありがとうございます。まだ発表しただけでまだまだこれからです(笑)
と謙遜されたご様子でしたが、4~5年ほど前から「日本のコンテンツをブロードウェイへ」と夢を語られていた瀧内さんの目標を、実は私は伺っていました。まさに有言実行!かっこいいです!
『鼻下長紳士回顧録』は20世紀初頭パリが舞台の、売春宿で働く若い女性の成長物語。人物の心情の描写が日本ならではのきめ細かい表現が印象的で、「明日への希望」という、今の時代だからこそ世の中に届けるべきメッセージを含む奥深い作品です。ブロードウェイでの上演は2022年の秋頃を目指すとのこと。演出・振付に、ミュージカル『モダン・ミリー』でトニー賞受賞、最近ではディズニーミュージカル『FROZEN(アナと雪の女王)』振り付けを担当していらっしゃるロブ・アシュフォード氏を起用するなど、期待が高まります。
日本人であれば必見!コロナ後の楽しみが増えました!歴史に残るかもしれないこの作品を是非劇場で見てみたいですよね。
【初耳学が盛りだくさん、コンテンツ制作の裏に隠れた知られざるOmotenashi(おもてなし)】
劇場設立が街作りに繋がっている?ミュージカルを楽しんでもらうだけではない、ライブエンタテインメント業界の工夫とは。
瀧内さんが劇団四季でお勤めだったことはご紹介しましたが、ミュージカル上演に伴い工夫されたOmotenashi(おもてなし)についてたくさん教えて頂きました。
ー瀧内さんの劇団四季などでのご経験を踏まえ「人に観せる」という観点でのこだわりを教えてください。
瀧内:劇団四季の主宰だった浅利慶太氏から、劇団四季では劇場を建てる時に気をつけていることがあると聞きました。それは、駅から歩いて10分以内のところに建てる、ということです。お客様は、家または会社を出発して、一緒に行く人と待ち合わせをして、駅から劇場まで移動をして、観劇して、駅まで戻って家まで帰る。その導線の中で買い物をしたり食事をしたりするかもしれない。私たちができることは、駅から劇場までの移動時間をいかに短くしてロスを減らすかということを計算して劇場を設立すると言うのです。加えて、お客様の時間の過ごし方の核となるミュージカル終演時間は、家が遠いのでなるべく早く帰りたいというお客様、夕食を食べてからお帰りになるお客様など、様々なお客様に対応できるのが21:30である、ということをベースに考えています。お客様の全ての行動を想像した上で、劇場を建て運営しているのです。
ー劇の終わりの時間ベースにお客様の行動をデザインされているのですね。ミュージカル前後のことも考えてのお客様の寄り添った工夫は、まさにomotenashi(おもてなし)ですね。
この工夫から生まれるメリットはありますか?
瀧内:劇場ができることで「街作り」に貢献することができます。例えば、今、TBS赤坂サカスを中心に人通りが多い赤坂という街は、もともとは大人の男性のための飲み屋街、として賑わっていた街でした。1995年、劇団四季とTBSが共同で日本で初めてのディズニーミュージカル『美女と野獣』のための専用劇場である「赤坂ミュージカルシアター」を建設しました。すると、赤坂に女性やお子さん連れのご家族がたくさん訪れ、買い物や食事をしていく。人の流れが一変しました。ミュージカルチケットの半券で劇場周辺のレストランで食事ができたり、またその食事の内容がその日に上演されたストーリーに出てくるものであったり、、、TBSはこの成功を元に赤坂サカスを作り、そこに訪れる客層に合わせて周辺の店も変化していったのです。
ーなるほど。客層や立地、その日のコンテンツの内容に合わせてお客様に楽しんで頂く工夫がなされているのですね。知らないことばかりで驚きました。
瀧内:そうですね。お客様は1か月~2か月くらい前からチケットを買い、その日に向けて体調を整えたり、その日は残業しないように仕事を調整したり、普段の生活に気づかないうちにストレスをかけて当日を楽しみされていらっしゃいます。そんなお客様のために、ミュージカルの上演時間だけを楽しんでもらうだけではなく、チケットをご購入していただく前から、コンテンツをご覧いただいた後まで、お客様の導線やモチベーションなど全てをデザインすることで楽しんで頂くということを考えています。コンテンツをきっかけとしてお客様の生活のトータルプロデュースと言っていいかもしれません。実はディズニーランドも同じように考えています。ライブエンタテインメントは、人の導線のトータルプロデュースが肝なんです。
「ミュージカルを使って生活に豊さを!彩りを!」というマインドが劇団四季の根底にあると瀧内さんは教えてくださいました。
次はブロードウェイの特徴やこれからのブロードウェイのあり方などを伺いました。
日本とは違う!?ミュージカルの楽しみ方。コロナ後のブロードウェイのあり方とは。
ーブロードウェイでも何か工夫点はありますか?また、同じミュージカルでも日本とブロードウェイでは盛り上がりや華やかさなど少し違いがあるように思います。それはなぜでしょうか?
瀧内:ブロードウェイミュージカルの終演時間は日本に比べると遅めに設定されています。23:00に終わるものもあります。それは客層として観光客が多く、ブロードウェイ劇場街近くのホテルに泊まっている人が多いため、帰る時間をさほど考えなくても良いからです。劇の前に食事をする、劇が遅めに始まる、終わりの時間も遅いけど帰りの時間を気にしなくてもいい、という導線の計算です。
また日本とブロードウェイの違いについて、これは私見ですが、日本人はコンテンツの中身を楽しもうという意識が強く、ブロードウェイのお客様は雰囲気や空気感を楽しもうという人が多いイメージがあります。それは観光客が多いからかもしれません。ブロードウェイでは「トータルで楽しもう!」という雰囲気があり、ブロードウェイ劇場街に行ったという経験が大事であるという思考があります。ですので楽しみ方人それぞれであり、他のお客様の楽しみ方にも寛容、劇中どこで笑ってもどこで拍手をしても気にしません。最悪寝ちゃっててもよくて、劇の前の食事が楽しかったとか、タイムズスクエアを見たとか、言い換えれば、お客様の1日の導線の中のどこかが楽しければ良い、という観点で設計されていると言ってもいいかもしれません。
ーブロードウェイでも客層に合わせた工夫がなされているのですね。そして、確かに日本人は同じところで笑ったり拍手をしたり周りの状況に合わせてしまうところがありますよね💦もっと素直に楽しめば、、、なんて思ってしまいますが育った環境で根付いた価値観はなかなか変えられませんね。(笑)
こんな話をしているとますます早く活気あるブロードウェイが戻ってきて欲しいと思ってしまいますが、これからのブロードウェイ、コロの後のあり方などはどのようにお考えですか?
瀧内:コロナ後のライブエンタテインメントのあり方はみんなでこれから探していくものではないでしょうか。例えば、もっと短い時間でコンパクトに楽しんでもらえるものがいいのではないか、夜ではなくお昼など早い時間に楽しんでもらえるものを増やすのはどうか、など。私たちの作品も、これからの時代に合わせてどうあるべきかをチームで話し合っています。コンテンツを作っている方たちは、形にこだわらず、「届けたいメッセージが届けば良い!」と思っています。何を届けたいのかをしっかり持つことが大事で、そのほかのところは柔軟であるべきと考えています。
コロナ禍において世の中多くの企業が変革を余儀なくされています。ここからは会社経営の経験も豊富である瀧内さんに、コンテンツ制作を通して考えるべきビジネスの観点で教えを頂きました。今会社経営で悩まれている方!変革を求められ煮詰まっている方!ジャンルは違えど何かヒントになるかもしれません。
続きは後編に続きます。是非この後も読み進めてみてください。